- 死の受容
- 2011.07.19 Tuesday
- category: 詞
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「この歯ブラシ、先が広がっちゃったね」
「本当だ。新しくしなくちゃね」
歯ブラシは先が広がったことに気づいた彼を見た
(彼はまだ僕を使う。しかし明日はもう僕ではないのだ)
深夜彼が眠る間、歯ブラシは自分を見て思う
(毛先は跳ねて、残渣物で多少の汚れもある。毛の腰も弱くなったものだ)
古くなった自分に落胆する気持ちを持ちながらも、歯ブラシはふと小さく微笑んだ
(そういえば彼は、学校で表彰されたのだったな)
***
翌日のこと
新しく卸された歯ブラシを横に、彼は先の広がった僕を見た
僕は恥ずかしかった
使い古された自分、もう使われることのない姿を見られ、
真新しい歯ブラシの前で捨てられることがたまらなく身を熱くさせた
「…今までありがとね」
しかし小さく呟かれた感謝にどきりとした
そしてそっと身を袋の中に置かれた
僕は彼から目を離せなかった
そして彼は洗面台に向かい、新しい歯ブラシで歯を磨いた
その歯ブラシの背には輝かしい表彰のタイトルが刻まれていた
役目を終えた清々しい気持ちに、どうしてか気持ちが落ち着いた
僕は彼に役目を果たしたことを告げられることに誇りを感じたのだ
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